IoTを実現しようと思ったとき、利用可能な通信規格は多数存在します。
それぞれに特徴があって迷いやすいです。
ですから、様々な通信規格について、利点と欠点をまとめた比較記事をお探しの方もいることでしょう。
本記事では、まさにそのようなお悩みを解決するための情報を提供します。
本記事を参考にして頂くと、様々な通信規格の利点と欠点を素早く比較することができ、IoT製品を設計するにあたっての基礎となる情報が簡単に手に入ります。
その結果、製品調査の焦点を絞ることができるので、調査時間を短縮できます。
IoT用通信モジュールを選ぶポイント
IoT用通信モジュールを選ぶポイントとしては、以下の項目について検討が必要です。
また、通信規格特有のサービスもありますので、その点も忘れないようにしましょう。
ここで比較した内容は、後述の一覧表で再度、簡単に確認することができます。
920MHz帯のデータ通信量には注意が必要です。
この帯域は、後述するように連続通信可能時間が制限されているため、規格上の通信速度よりも、実際の通信量はさらに低下します。
屋外で運用するなら、長距離・小電力
IoTサービスを屋外で提供したい場合、長距離伝送できて消費電力が小さく、デバイスの寿命が長い規格が望ましいです。
理由は、屋外の場合、足場が悪かったり、悪天候の影響を受けるなど、保守性が著しく低下することが多いからです。
また、雨天の場合、周波数が高いほど遮蔽される性質があります。
これらの点を考慮すると、920MHz帯のLoRaWAN・Sigfox・Wi-SUNや、LTEバンドのLTE-M・NB-IoTなど、LPWAと呼ばれる規格を採用するのが望ましいです。
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見通しが確保できない場合は、中継機能またはハイブリッド化
IoTに利用できる周波数帯は、大きく分けて920MHz帯とGHz帯があります。
この2種類の電波の顕著な違いは、回り込み特性です。
920MHz帯は、障害物や山に遮蔽されても回り込みやすいので、1km~50km程度まで伝送することができます。
それに対して、GHz帯は見通しが確保されていないと、100m伝送することも難しくなります。
ですから、IoT製品の利用シーンを考えたとき、見通し距離が確保しやすいかどうかが重要なポイントになります。
例えば、企業の自社工場や倉庫では、装置の配置レイアウトは自由に決めることができ、天井が高い場合も多いです。
こうした場所では見通しが確保しやすく、GHz帯を利用しやすいです。
一方、個人宅では、到達距離は短くて良いですが、細かく部屋で区切られていたり、自由な姿勢で利用したりします。
そのため、自分の体で電波を遮ったり、壁や扉で遮られたりするため、電波が減衰する機会が増えます。
このような状況では、中継機能を持つZigBee、Bluetooth、Wi-Fiを選定すると有利です。
中継機能がない規格を採用したい場合は、ゲートウェイをエンドデバイスの設置場所まで持ってくる必要があります。
そのためには、ハイブリッド化して中継機能を持たせるか、有線ケーブルを敷設する必要があります。
ハイブリッド機能を持たせる場合、2つのモジュールを搭載するか、1つのモジュールに複数の規格が搭載されたモジュールを使用することになります。
市販品のラインナップ・在庫量ともに最も豊富なのは、Bluetooth・Wi-Fiで、ハイブリッド製品も多数見つかります。
このように、見通しを確保できるかどうかによっても、採用する規格や製品形態に検討の余地が出てきます。
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冗長化はメッシュネットワークが有利
提供エリアを冗長化してカバーする場合、どのようなネットワーク構成を採用するかでコストが大きく異なります。
最も自由にカバーできるのは、メッシュ構成です。
この場合、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBeeが候補になります。
冗長化するルートが少ないのであれば、スター構成であるLoRaWANも適用できます。
もし広範囲のエリアを冗長化したい場合は、スター構成はメッシュ構成よりも設置する装置台数が増加しやすいので、おすすめできません。
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屋内の干渉電波について対策が必要
屋内でIoT装置を運用する場合の大きな問題の1つに電波の干渉があります。
Wi-Fi・Bluetoothともに、国際的に浸透している大容量通信規格であり、通信モジュールの入手性もよく、高性能・低価格です。
ところが、様々な機能を持った製品が市場に多く出回っていて、かつスマホのように常時稼働しているものも多いため、干渉する可能性が他の規格よりも遥かに高いです。
せっかく自社製品を開発しても、そのために毎回インターネット用のWi-Fi電波を止めさせたり、Bluetoothイヤホンを止めさせたりするのであれば、ユーザーに喜ばれないでしょう。
ですから、屋内での利用シーンを検討する場合、干渉を回避する機能を充実させるか、干渉しにくい周波数の通信規格を選択する必要があります。
エンドデバイスが単一通信規格で少量のデータ通信であれば、LPWAを採用するのが簡単です。
今後LTE電波が5Gに移行すれば干渉源が減るという点でも、有力な選択肢になります。
反対にデータ通信量が多いのであれば、Wi-Fi・Bluetoothが必要になります。
同時接続台数に対してチャネル数があまっていれば、周波数ホッピングにより干渉を軽減できます。
また、別の方法としては、複数アンテナによる空間ダイバーシティ機能を搭載した製品を導入することも有効です。
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クラウドサービスを開発する必要があるか?
標準でクラウドサービスを提供している通信規格はSigfoxだけですが、他の規格では、サードパーティのクラウドサービスが利用できる場合があります。
Sigfoxを通信規格として利用する場合は、Sigfox社の提供するクラウドサーバーにデバイスのデータが集積されます。
ここから、専用のAPIでデータを取りだす必要があります。
例えば、LoRaWANであれば、SORACOM・NTTdocomoがクラウドサービスを提供しています。
誰でもインターネットを利用できる時代ですから、IoTデバイスのデータをブラウザ経由で閲覧したいというニーズは容易に想定されます。
そのため、通信規格を採用するにあたっては、クラウドサービスはレンタルか自社開発か、レンタルするのであればどのサービスが良いのか、という点ついても検討が必要です。
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高速移動体通信が必要か?
鉄道・自動車など、高速移動体をプラットフォームとしてIoTサービスを提供する場合、それを想定した規格を採用する必要があります。
高速移動体の通信に適性がある規格は、LTE-Mと5Gになります。
この2つの規格は、最初から高速移動体通信を想定して策定されているので、複数の基地局をまたいでユーザーが移動する際、十分な速度でハンドオーバーできます。
これにより、ユーザーは通信断に見舞われることなく、サービスを利用できます。
ただし、これは基地局と移動体が直接通信する部分の話です。
もしそこはサードパーティ(例:JR・携帯キャリアなどのインフラ企業)が提供し、自社製品は車内空間だけのサービスになるのであれば、その他の通信規格も採用できます。
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920MHzのISMバンドは通信時間制限がある
LPWAのうち、LTE-M・NB-IoTは、キャリアのライセンスバンドを使用するため、通信時間制限はありません。
ですが、920MHz帯(ISMバンド・アンライセンス)では、常時通信する場合、通信時間が『最大400msまで。さらに通信後、通信時間の10倍の時間待機』という規制が課せられます。
そのため、理論上の最大通信速度(後述の一覧表の値)よりも、時間当たりの実際の通信量は大幅に低下します。
具体的には、1000msあたり400ms通信なので、理論値がまず10分の4になります。その後4秒待機しますので、1秒当たりの通信量がさらに5分の1になります。
ですから、これを掛け合わせると、実質20分の1になります。
簡単な計算式: [理論上の通信速度] ✖ 0.4 ✖ 0.2 = [実際の通信量]
この規制が、自社製品にとって致命的な障害とならないか、よく検証する必要があります。
例えば、Sigfox・LoRaWANのクラスAデバイスなどは常時通信しないので問題ありませんが、LoRaWANのクラスCデバイスにおいては、期待通りの通信性能が出ない可能性があります。
実際の規制内容については、ARIBの技術資料を閲覧してください(会員無料・非会員有料・英語版無料)。
キャリアセンス時間・通信時間などによって、実際の規制は細かく異なりますので、しっかり調査する必要があります。
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通信モジュール性能比較一覧表
各種通信モジュールの比較一覧表を掲載します。
個別の通信モジュールについての記載ではなく、調達事情も加味した、包括的な記載になっています。
通信規格 | Sigfox | LoraWAN | Wi-SUN | LTE-M | NB-IoT | 4G-LTE | ZigBee | Bluetooth 5.1 | Wi-Fi (802.11.ac) | 5G |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
策定団体 | Sigfox社 | LoRa Alliance | Wi-Sun Alliance | 3GPP | 3GPP | 3GPP | ZigBee Alliance | BSIG | Wi-Fi Alliance | 3GPP |
周波数帯 | 920MHz | 920MHz | 920MHz | LTEの一部 | LTEの一部 | 700/800/900MHz 1.5/1.7/2.0/2.5/3.5GHz | 2.4GHz | 2.4GHz | 2.4GHz 5GHz | 3.7 -4.6/ 27~28.2/ 29-29.5GHz |
通信距離 | 5 - 10km | 2 – 50km | 500m – 1km | 10km | 20km | 2km | 75m | 1 - 400m | 100m | 1km |
消費電力 | 極小 | クラスA : 極小 クラスB : 中 クラスC : 常時稼働 | 極小 | 極小 | 極小 | 常時稼働 | 極小 | 常時稼働 | 常時稼働 | 常時稼働 |
高速移動体 | ✖ | ✖ | ✖ | ◯ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ◯ |
通信速度 | UL:100bps DL:600bps | DL : 11 – 300Kbps UL : 11 – 300Kbps | UL : 50 -300Kbps DL : 50 -300Kbps | UL : 0.8Mbps DL : 1Mbps | UL : 63kbps DL : 27kbps | UL : 50Mbps DL : 150Mbps | UL : 20 – 250Kbps DL: 20 – 250Kbps | 125Kbps -2Mbps | 6.9Gpbs | 10Gbps |
通信量 制限 | UL : 12バイト x 140回/日 DL : 8バイト x 4回/日 | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし |
帯域幅 | 100Hz | 31 – 500KHz | 400KHz | 1.4MHz | 180KHz | 20MHz | 3MHz | 1MHz | 20MHz | 100 – 400MHz |
同時接続数 | 制限なし | 制限なし | 64台 | 制限なし | 制限なし | 制限なし | 65535台 | 制限なし | 制限なし | 制限なし |
中継機能 | ✖ | ✖ | ◎ メッシュ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ◎ メッシュ | ◎ メッシュ | ✖ |
市販在庫 | 小 KCCSのHPから選定 | 小 国内メーカーと直接取引推奨 | 小 ROHM、数量豊富 | 多 キャリアのHPから選定 | 多 キャリアのHPから選定 | 小 キャリアのHPから選定 | 中 Digi製品多い | 多数 各種メーカーの市販在庫豊富 | 多数 各種メーカーの市販在庫豊富 | 小 キャリアのHPから選定 |
回線 | KCCSのみ 1年更新 | 自営 | 自営 | キャリア | キャリア | キャリア | 自営 | 自営 | 自営 | キャリア |
まとめ
IoTは、『モノのインターネット』です。
家電に代表されるような、従来はコンピューターを装備することが技術的に不可能だったような機械を電脳化することが最もシンプルな例です。
それらに、ICチップのような超小型のトランシーバーを取り付け、監視・制御する、というように使います。
その展開したいフィールドに応じて、必要な無線性能は変わってきます。
ですが、まず大まかな性能分類の基準として、使用する周波数帯ごとの特性に着目するとわかりやすいです。
その特性を比較して通信規格を絞り込んでから、個別の通信モジュール製品の特長をデータシートで確認しつつ、詳細を煮詰めていくのが効率的ではないでしょうか。
ぜひ本記事を参考に、IoTサービスに適した通信モジュールを選定し、そのアイディアを練り上げて頂ければと思います。
本記事が、創造的なIoTサービスを生み出すきっかけになれば幸いです。
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【2022年度版おすすめ】IoTに使えるLTEモジュール徹底比較
IoTに使用するLTEモジュールに興味がある・探している、という方のために、IoTに活用しやすい各種製品を、表形式でまとめてご紹介します。 本記事では、インターネットで検索出来て、かつ大手販売代理店・ ...