IoTに使用する通信モジュールに興味がある・探している、という方のために、IoTに活用しやすい各種Wi-Fiモジュールをまとめてご紹介します。
本記事では、インターネットで検索出来て、かつ入手しやすいWi-Fiモジュールをターゲットとして、比較・解説しています。
ご自分でWi-Fiモジュールを導入したいと考えたとき、本記事を参考にして頂くと、速やかにご要望に合ったWi-Fiモジュールを見つけることができます。
なぜIoTの通信にWi-Fiが必要なのか?
IoTの無線通信にWi-Fiを使用する理由は、以下の通りです。
Wi-Fiを使用する理由
- 他の無線通信方式に比べて通信距離が長い
- 普及しているため、既存の対応製品が多い
- 規格の改良が続けられている
Wi-Fiは半径30m~50m程度まで通信可能なので、個室から工場のフロアまでカバーできます。
それに対して、Bluetoothや赤外線(IrDA)のモジュールは、短距離用の規格なので、個室や、送受信する装置同士が非常に近い環境が必要で、利用シーンがWi-Fiモジュールよりもやや限定されます。
LPWAだと、通信距離が長い代わりに送信電力が小さく、伝送ビットレートが低くなります。
これだと少量のデータを伝送するには良いのですが、リアルタイムの伝送能力がWi-Fiよりも低くなります。
ですので、本記事では、IoTモジュール設計のために使い勝手が良い、Wi-Fiモジュールに注目して製品情報を紹介しています。
Wi-Fiの利点・欠点
Wi-Fiという規格そのものに焦点を当てて考えたとき、以下の利点と欠点があります。IoTに利用する場合、これらの利点と欠点を踏まえて利用シーンを考えなければいけません。
利点1. 高密度&高速通信が可能
Wi-Fiは技術革新が進んでおり、高密度&高速通信に対応している規格です。
そのため、工場や体育館などの広いフロア空間を少ないAPでカバーすることができます。
また、映像・音声などの大容量データ伝送にも適しています。
利点2. Wi-Fi対応携帯端末が普及している
総務省の調査によると、スマートフォンは9割の世帯が所有しています。
そしてそのほぼすべてが、Wi-Fi機能を搭載しています。
ということは、IoTデバイスがWi-Fi通信に対応することは、必然的にこれらの端末が制御用端末として利用できるということになります。
それならこの部分はハードウェア開発が必要なく、アプリ開発のみで済みますので、開発効率が良いということになります。
欠点1. 遮蔽に弱い
Wi-Fiは2.4GHzまたは5GHz帯を使用します。
このような高い周波数では、障害物による電波の遮蔽があるとき、回り込むことができず電波強度が非常に低下します。
ちょうど、日光を遮ると陰ができるのと同様のことが、電波でも起きてしまうのです。
そのため、通信するアンテナ同士の見通し距離の確保にも十分留意する必要があります。
ちなみにこの欠点はBluetooth、IrDAでも同様です。
欠点2. 5GHz帯は屋外で使用できないチャネルがある
Wi-Fiの5GHzの周波数帯のうち、5.3GHz帯は屋外利用できません。
5.2GHz帯も制限があります。
これは国ごとに異なる部分であり、屋外で利用するシステムを考える場合は、設計に影響を与えます。
総務省にわかりやすい資料が公開されているので、下記にリンクを掲載ました。
詳しく知らない方は読むとよくわかります。
欠点3. セキュリティに注意が必要
Wi-Fiは他の通信方式同様セキュリティ機能を持っています。
これには複数の方式があり、WEP、WPS、WPS2.0、WPS3.0の順に強度が高くなっています。
WEPは初期のもので、既に解析ソフトが出回ってしまっているので、強度は無いものと考えましょう。
WPA2、WPA3は普及しています。
しかし、実はこれらも脆弱性が発覚しています。
屋外などの盗聴可能な環境での利用には危険が伴いますので、十分に安全性を検討する必要があります。
Wi-Fiモジュールを選ぶポイント
Wi-Fiモジュールを選ぶ基本的なポイントは、以下の通りです。これを踏まえて製品選定を行う必要があります。
個々の製品仕様だけでなく、メーカーが提供する開発のためのリソース全体が関係してきます。
開発環境は構築しやすいか?
IoTシステム開発には、以下の要素が揃わなければいけません。
IoT開発で必要な要素
- 開発用PC
- 通信モジュール
- プロセッサ(ファームウェアを内蔵し、通信モジュールを制御)
- 各種接続キット(開発用PCとプロセッサ・モジュールを接続)
- SDK(開発用PCにインストール。ファームウェアを含むソフトウェア部分の開発
わかりやすく一言で言うと、開発用PCから無線アンテナまで連なる一連の開発環境を組み立てる必要があるということです。
例えば、最も便利なのは、TexusInstrumentsのように、同一メーカーが一貫して開発環境を提供しているケースです。
この場合、技術サポートを受けやすく、非常に効率的に開発できます。
個別に異なるメーカーのものを揃える場合は、製品の相互運用性(=相性)の調査・試験に伴うコストが増大し、開発期間もその分長期化します。
Bluetoothとのコンボが必要か
Bluetoothとのコンボ(同じ基盤に搭載すること)は、スマホのような複数の通信方式を実装する製品向けに便利です。
Bluetoothは2.4GHzの電波と競合を起こしますが、5GHzの電波とは共存することができます。
ネットワークミドルウェア内蔵か?
TCP/IPプロトコルスタックを始めとしたネットワークミドルウェアが内蔵されている製品は、インターネット通信機能の開発コストを大きく削減することができます。
もちろん、クラウド対応も視野に入ります。
TCP/IPの他には、TLS、SSL、HTTP、IPv6などがあります。
使用予定国の電波関係認証を取得済みか
どの国の認証を取得済みかという点も、開発コストに大きく影響を与えます。
日本国内であれば、電波法に準拠し、技術基準適合マークが取得されているかを確認します。
この表記の仕方はメーカーによって多少違いがあり、TELEC、MIC(総務省の略)などの表記があります。
アンテナの特性に注意!
アンテナ外付けのWi-Fiモジュールは、認証を取るときは、一時的に別売りの何らかのアンテナを使って試験しています。
このようなアンテナを、リファレンスアンテナといいます。
自分の製品で使用予定のアンテナ特性がリファレンスアンテナと異なる場合、認証の基準値を外れてしまわないように注意してください。
外れてしまうと、その認証は無効となり、改め認証を取得しなさなければいけなくなってしまうのです。
Wi-Fiモジュール製品情報比較一覧表
Wi-Fiモジュール製品情報比較一覧表を掲載します。
その中で、各製品の主要な特徴をご紹介します。
メーカー | Espressif (中国) | Espressif (中国) | Espressif (中国) | 太陽誘電 (日本) | 太陽誘電 (日本) | ROHM (日本) | ROHM (日本) | Silex (日本) | Silex (日本) | Silex (日本) | 村田製作所 (日本) | Laird Connectivity (米) | Laird Connectivity (米) | Laird Connectivity (米) | SiliconLabs (米 / 日本語サイトあり) | SiliconLabs (米 / 日本語サイトあり) | SiliconLabs (米 / 日本語サイトあり) | SiliconLabs (米 / 日本語サイトあり) | SiliconLabs (米 / 日本語サイトあり) | Texus Instruments (米 / 日本語サイトあり) | Advantech (台湾) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
型番 | ESP32-WROOM-32U | ESP-WROOM-02U | ESP-WROOM-02D | WYSACVLAY-XZ | WYSACVLAY-WX | BP3595 | BP3591 | SX-ULPAN-2404-SP | SX-ULPAN-2401-SP | SX-ULPAN-2401 | LBWA1UZ1GC-958 | 453-00049 | 453-00047C | ST60-2230C | WFM200S022XNN3 | WFM200SS22XNN3 | WGM160P022KGA3 | WF111-E-V1 | WF111-N-V1 | CC3235MODASM2MONR | EWM-W158F01E |
価格[円] | 460 | 377 | 377 | 1130 | 1240 | 4460 | 5800 | 3910 | 2899 | 2899 | 2025 | 2241 | 3040 | 3671 | 669 | 702 | 1086 | 1378 | 1378 | 2359 | 14976 |
無線規格 | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11a/b/g/n | 11a/b/g/n | 11a/b/g/n | 11a/b/g/n | 11a/b/g/n/ac | 11a/b/g/n/ac | 11a/b/g/n/ac | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n | 11a/b/g/n | 11a/b/g/n |
I/F | UART SPI SDIO | UART HSPI | UART HSPI | UART SPI | UART SPI | USB SDIO UART | USB SDIO UART | UART | SPI | SPI | USB2 SDIO | SDIO3 USB2 Mini- PCIe | SDIO USB | USB2 SDIO3 Mini- PCIe | SDIO SPI | SDIO SPI | UART SPI USB | SDIO | SDIO | SPI UART | Mini- PCIe |
ANT | 外付 U.FL | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 | 外付 U.FL | 内蔵 | 内蔵 | 外付 | 外付 MHF4 | 内蔵 外付 | 内蔵 | 外付 x2 | 内蔵 | 外付 x2 | 外付 U.FL | 内蔵 | 内蔵 | 外付 U.FL x2 |
技適 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
寸法[mm] | 18.0 x 19.2 x 3.2 | 18.0 x 20.0 x 2.8 | 18.0 x 20.0 x 2.8 | 21.4 x 14.0 x 2.4 | 21.4 x 14.0 x 2.4 | 15.3x 27.6 x 2.6 | 24.0 x 33.1 x 4.7 | 20 x 15 x 2.2 | 20 x 15 x 2.2 | 20 x 15 x 2.2 | 10 x 10 x 1.2 | 12 x 17 x 2.2 | 12 x 17 x 2.1 | 22 x 30 x 3.3 | 6.5 x 6.5 x 1.3 | 6.5 x 6.5 x 1.3 | 23.8 x 14.2 x 2.3 | 12.0 x 19.0 x 2.1 | 12.0 x 19.0 x 2.1 | 25 x 20.5 | 50.8 x 29.9 x 2.9 |
動作温度[℃] | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -30 ~ 85 | -30 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -30 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -30 ~ 85 | -40 ~ 105 | -40 ~ 105 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 |
動作湿度[%] | 不明 | 不明 | 不明 | DS参照 | DS参照 | 85% 以下 | 85% 以下 | 10~95% | 10~95% | 10~95% | 不明 | 10 ~ 90% | 10 ~ 90% | 10 ~ 90% | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 10 ~85% |
説明 | 2.4GHz BT4.2/BTLE FCC/CE/IC/NCC/SRRC/KCC | 2.4GHz WPA2 TCP/IP内蔵、IPv4 FCC/CE/IC/NCC/SRRC/KCC | 2.4GHz WPA2 TCP/IP内蔵、IPv4 FCC/CE/IC/NCC/SRRC/KCC | NWミドルウェア内蔵 SDKでソフト開発可能 FCC/CE/ISED/ROHS適合 | NWミドルウェア内蔵 RTOS,WLANドライバ内蔵 FCC/CE/ISED/ROHS適合 | 11i(セキュリティ)対応 WPS TCP/IP内蔵 | 11i(セキュリティ)対応 WPS TCP/IP内蔵 | FCC/CE/ROHS適合 WPS2 TCP/IP内蔵 低消費電力 | FCC/CE/ROHS適合 WPS2 TCP/IP内蔵 低消費電力 | FCC/CE/ROHS適合 WPS2 TCP/IP内蔵 低消費電力 | FCC/IC/EN 2.4GHz/5GHz OEM専用 | 2.4GHz/5GHz WPA2 BT5.2 FCC/ISED/ETSI/RCM LairdLinux/Android専用 | 2.4GHz/5GHz WPA2 BT5.2/BLE EN/FCC/ISED/RCM | 2.4GHz/5GHz 11ac Wave2/2x2 MIMO WPA2 BT5.1 FCC/ETI/IC(オプション:MIC/KC) LairdLinux/Android専用 | 2.4GHz 低消費電力 アンテナダイバーシティ可能 FCC/CE/ISED | 2.4GHz 低消費電力 FCC/CE/ISED | 2.4GHz FCC/CE/ISED/KC GeckoOS搭載 | 2.4GHz WPA2 FCC/CE/IC/KC Linux | 2.4GHz WPA2 FCC/CE/IC/KC Linux | SimpleLink 2.4GHz/5GHz FCC/iC/ISED/ETSI/CE/SRRC TCP/IP内蔵 (IPv4/IPv6) WPA3 | 2.4GHz/5GHz 2x2 MIMO WPA2 FCC/IC/CE WinXP/Vista/7/8/Linux/Android |
ショップ一覧
参考情報として、本記事を執筆するために調査した対象オンラインショップおよび販売代理店の一覧を掲載します。
いずれも世界中のメーカーの部品を調達できる優れたディストリビューターです。
Mouser
特徴
- 世界中に223拠点
- 365日24時間出荷可能
- 製品検索フィルターが便利
- 数値変換ツール各種あり
- 在庫状況アシスタント
- インテリジェントBOMツール「FORTE」
- 設立年:1983年
chip one stop
特徴
- 2,100万点以上の型番データベース
- 400万点以上の即納在庫
- 最小1個から購入可能
- 入手困難品、生産中止品の調達に対応
- 在庫品は17:00までの注文なら最短即日出荷 ・5000円以上の注文は送料無料
- 設立年:2001年
DigiKey
特徴
- 常時在庫190万点以上
- 注文の99%を同日出荷
- 年間売り上げ高31億6千万USD以上
- 24時間サポート対応
- 6000円以上、50USD以上の注文は送料無料
- 非取扱い品も対応可能
- 出荷予約システムによる分割納品可能 ・統合型部品リスト管理システム「myLists」
- 設立年:1972年
RSコンポーネンツ
特徴
- 世界中の地域に対応
- サイトに未掲載の製品も調達可能
- チャット問い合わせ対応
- 国内18:00までの注文は翌日発送 ・税抜き6000円以上の注文は送料無料
- 設立年:1998年
IoT情報ポータル - EIPCを活用しよう!
こちらも参考情報です。
IoTの設計のためには、さまざまなメーカーの情報が必要になります。
ですから、情報交換に便利なコミュニティがあると便利です。
日本国内では、IPROS、EIPCなどが有名ですので、リンクを掲載しておきます。
IPROSはあらゆる業種をカバーしており、EIPCは組み込みソリューションに特化しています。
まとめ
Wi-Fiモジュールという言葉には曖昧さが含まれています。
その言葉を話す人によって、SoCからPCIe拡張ボードや、CPUボードまで、様々なサイズ・機能の製品を指すので、とても迷いやすいです。
まずは、設計上の重要な要件に的を絞り、1つ1つ確認していくとよいでしょう。
本記事では、世界中に販売ネットワークを持つディストリビューターのショップサイトを調査し、3桁程度の在庫数量がある商品を掲載しました。
最新の11axは残念ながら全く掲載していませんし、11acに対応している製品はごくわずかです。
その理由は、執筆時点で在庫数量が多いものは、11nが大多数を占めていたからです。
これは、在庫数量にメーカー同士の直接取引は反映されていないためではないかと推測しています。
グローバルな技術動向から言えば、常に新技術が開発されており、ユーザーもまたその新技術に興味があるので、自分の製品を11ax、11acに対応させる意味は大きいですから、油断せずチェックする必要があるでしょう。
未取り扱い品を調達してくれるサービスや、BOM登録、一括在庫確認など、各ショップには便利な機能がありますので、ぜひ活用しましょう。
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