Sigfoxは、LPWA(Low-Power-Wide-Area)と呼ばれる規格の一種です。
他のLPWAよりも早くサービスを開始しているので、LPWAの普及に貢献した先駆的な規格と言えます。
このSigfoxは、920MHz帯のアンライセンスバンドを使って、独特のビジネスモデルで運用されています。
本記事では、Sigfoxとは何か、Sigfox対応の通信モジュールは、どのようなものが入手しやすいのか、という点について、詳しく解説します。
本記事を参考にして頂けば、Sigfoxモジュールを使ってIoT製品を設計する場合の利点と欠点が明確になり、調査時間を短縮できます。
なぜIoTの通信にSigfoxが必要なのか?
IoTの無線通信にSigfoxを使用する理由は、以下の通りです。
Sigfoxを使用する理由
- 長距離・広範囲に伝送可能
- 『少量のデータ収集』に特化している
- 超長寿命
Sigfoxは、長距離・広範囲の少量のデータ収集に特化した規格です。
Sigfoxに対応するデバイスは、1回に12バイトのデータを1日140回まで100bpsの速度でアップロードすることができます。
下り側は、1日に4回まで、600bpsで受信できます。
通信距離は5km~10kmで、電池1個で5年程度稼働できます。
これらの特徴から、Sigfoxは『少量のデータ収集』に特化しており、テレメトリ・モニタリングなどの用途に適していることがわかります。
反対に、制御には向いていません。
Sigfoxの利点・欠点
前項のSigfoxの特徴を踏まえて、より詳しく利点・欠点を見ていきましょう。
自社製品の設計に影響を及ぼす代表的な項目を解説します。
利点1. 920MHz帯は回り込みに強い
Sigfoxで利用されている920MHz帯は、遮蔽されても回り込むことができるので、GHz帯よりも物陰や、遠くに届きやすいという性質があります。
そのため、GHz帯を利用するWi-Fi・Bluetooth・ZigBeeなどの規格よりも、機器配置の自由度が高いです。
到達距離は5km~10kmですから、屋外で長距離・広範囲をカバーするのに適しています。
利点2. 基地局が多い
Sigfox基地局は、主要都市部に基地局が設置されており、人口カバー率は97%を達成しています。
ですので、携帯キャリア回線を使う端末と同じような感覚でSigfoxデバイスを配置できます。
Sigfoxの基地局およびネットワークの構築・運用は、各国で1つの事業者のみが受け持ちます。
日本ではKCCS(京セラコミュニケーションズ)です。
Sigfoxのデバイスは、必ずKCCSが保有するSigfox専用の基地局に接続する必要があります。
利点3. ノイズに強い・通信冗長化
Sigfoxの利用帯域幅は、100Hzです。
超狭帯域にすることで、干渉などのノイズを回避しやすくなっています。
また、アップロード時は、12バイトのデータを必ず3回送信し、到達可能な全ての基地局で伝送します。
これらの特徴により、通信の信頼性を高めています。
利点4. クラウドプラットフォームが用意されている
Sigfoxのソリューションを開発する場合、Sigfox社のクラウドネットワーク(以下、Sigfoxクラウド)の利用が必須になります。
SigfoxデバイスのデータはまずSigfoxクラウドに蓄積されます。
ここからデータを取りだして利用するためには、専用のAPIを通してアクセスします。
自社で自営ネットワークやクラウドサーバーを設置する必要がありませんので、その分サービスリリースまでのリードタイムを削減することができます。
欠点1. 双方向通信に弱い
Sigfoxは通信回数に制限があり、下り側は1回8バイト、1日4回の通信に制限されます。
これはかなり小規模な装置に特化した仕様なので、もっと頻繁な双方向通信が必要な用途には適していません。
欠点2. 中継機能がない
Sigfoxは中継をサポートしていませんので、デバイスは直接基地局に接続する必要があります。
そのため、屋内の不感地をカバーするためには、その建物内にSigfox用の回線を引き込み、小型基地局を設置する、という工事が必要になります。
また、バックホール部分の冗長化についてもコストが高くつきますし、KCCSが管理しているので自由に拡張できません。
この点は、無線バックホールによる冗長化が可能な他の規格よりも不利になります。
実際のSigfox製品を見ると、この欠点を補うため、中継機能は別のプロトコルで実現するハイブリッド製品になっているものがあります。
欠点3. 対応したい地域によってRCが違う
Sigfoxの開発環境は、世界のどの地域向けの開発であるかによって、RadioConfiguration(以下、RC)のバージョンが違います。
日本はRC3になります。
これはデバイスに落とし込まれるので、該当地域でしか利用できなくなります。
さらにややこしいことに、日本のRC3は、3aと3cがあります。
日本では、Sigfoxは当初、電波法による制約により本来の性能が出せませんでした。それが3aです。
その後、平成29年10月の電波法改正後、本来の性能が出せるようになり、こちらが3cです。
誤って3aのみ対応という製品を使わないようにしましょう。
もし複数の地域向けに、自動ローミング可能なデバイスを出荷したい場合は、Sigfox社が提供する『Monarch』テクノロジーに対応させることで可能になります。
Monarchの仕組みは、まずMonarch対応基地局がRC認識用の信号を発信し、それをデバイスが検出してRCを自動的に切り替えるというものです。
欠点5. 回線契約が必要
Sigfoxの回線は、ソリューションを提供する事業者がKCCSと契約しなければいけません。
そうしなければ、デバイスはSigfoxクラウドへデータを送信できませんので、サービスを提供することができなくなります。
この契約は、1年ごとの契約更新が必要なので、デバイス数が多い場合は、やや煩雑になりますし、人件費もかかります。
これはエンドユーザーにとってのコストアップにつながるので、自社製品の価値が減少しないか注意が必要です。
Sigfoxモジュールを選ぶポイント
Sigfoxモジュールを選ぶポイントとしては、以下の項目が重要です。
開発環境は構築しやすいか?
Sigfoxは、Sigfox社独自のビジネスモデルなので、他の規格で設計するよりも、若干見えている情報が多くあります。
ここでは、それも踏まえたリストを提示します。
Sigfox開発で必要な要素
- 開発用PC
- 通信モジュール(Sigfox対応。ハイブリッド・Monarch対応済み製品など)
- MCU(ファームウェアを内蔵。②を制御する。ソフトウェアがインストールされる)
- 各種接続キット(①、②、③を接続。開発ボード・評価ボードを含む)
- DevKit(開発環境。①にインストール。地域ごとのRC or Monarch)
上記①と②は、一体化している製品もあります(SoC)。
④でMonarch対応の開発をする場合は、①に含まれる無線フロントエンドに、複数のRCに対応する性能と認証が必要です。
データ通信が少量で問題ないか?
Sigfoxのデータ通信は、以下の通りです。
・上り: 1日140回✖12バイト=1680バイト(1時間約5回✖12バイト=60バイト)
・下り: 1日4回✖8バイト=32バイト
回数・データ量ともに制限されているので、リアルタイムな通信はできません。
ゆったりした定点観測になります。
海外市場に対応する必要があるか?
Sigfox基地局は、世界70か国で導入されています。
窓口が1国1事業者に限定されているので、コンタクトをとりやすいです。
実用化されたソリューションの例が多くありますし、Monarchテクノロジーも海外市場への参入のために役立ちます。
技術基準や開発方法が国内向けのみの場合と大きく異なるので、計画段階から検討する必要があります。
クラウドサービスを開発する必要があるか?
Sigfoxで自社製品を設計する場合、通信性能の制約により、デバイスはほとんどセンサーと同義になりますから、クラウドサービス部分のソリューションも合わせて提供しないと、価値が認められにくいと考えられます。
この点も計画に含める必要があります。
Sigfoxモジュール製品情報比較一覧表
Sigfoxモジュール製品情報比較一覧表を掲載します。
その中で、各製品の主要な特徴をご紹介します。
ディストリビューターが在庫を保有している製品は、日本向けのRC3に対応していないので、KCCSが公開している国内向けSigfoxモジュールを掲載しました。
メーカー | SMK (日本) | SMK (日本) | SMK (日本) | Jorjin Technologies (台湾) | Jorjin Technologies (台湾) | ソンジインダストリアル (韓国) | ソンジインダストリアル (韓国) | ソンジインダストリアル (韓国) | ソンジインダストリアル (韓国) | 日本ライトン (日本) | 日本ライトン (日本) | Innovation Farm (日本) |
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型番 | WF941 | WF931 | WF923 | WS2116-A0 | WS2118-00 | WSSFM20R3AT | WSSFM10R3AT | SFM11R3000 | SRM100A | WSG309S | WSG303S | IFS-M01 |
価格[円] | 見積 | 見積 | 見積 | 1801 | 1786 | 見積 | 見積 | 見積 | 見積 | 見積 | 見積 | 見積 |
無線規格 | Sigfox RC3c | Sigfox RC3c | Sigfox RC3c | Sigfox RC1~6 | Sigfox RC1/3 | Sigfox RC3c | Sigfox RC3a | Sigfox RC3c | Sigfox RC1~RC6 | Sigfox RC1~RC6 | Sigfox RC1/3/5 | Sigfox RC3c |
I/F | UART | UART | UART | UART SPI | UART SPI | GPIO | UART | UART | 不明 | UART | UART | UART |
ANT | 外付 | 外付 | 外付 or 内蔵 | 外付 | 外付 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 外付 or 内蔵 | 外付 or 内蔵 | 不明 |
技適 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
寸法[mm] | 13.0 x 13.0 x 2.3 | 13.0 x 13.0 x 2.3 | 35 x 20 x 2.0 | 22 x 22 x 2.8 | 22 x 24 x 2.8 | 21 x 29 x 2.5 | 13 x 15 x 2.2 | 13 x 15 x 2.2 | 21.5 x 19.5 x 2.5 | 16.5 x 28.5 x 3 | 16.5x 22.5x 3 | 20x 28x 2.4 |
動作温度[℃] | -30 ~ 85 | -30 ~ 85 | -20 ~ 70 | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | -30 ~ 85 | -40 ~ 85 | -20 ~ 85 |
動作湿度[%] | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 |
説明 | 感度 -122dBm | 感度 -126dBm | 独自アプリケーション実装済み | 感度 -130dBm BLE FCC/CE | 感度 130dBm BLE ETSI | Wi-Fi BLE GPS NFC 加速度センサー | 感度 -127dBm | 感度 -127dBm | 自動ローミング | Monarch対応 BT5 |
Sigfoxモジュールの購入先
大手ディストリビューターの在庫としては、技適に対応しているモジュールは取り扱いがありませんでした。
しかもそれだけではなく、他の規格では標準的に認証されていたFCC(アメリカ)、IC(カナダ)などの認証も必ずしもあるわけではありませんでした。
こうした状況から、KCCSが公開しているSigfoxモジュールから自社のニーズに合う製品を選定し、直接取引するのが妥当な選択になります。
まとめ
Sigfoxは、屋外でのテレメトリ・モニタリングに強い規格です。
長距離・広範囲をカバーでき、超低消費電力なので、1次産業・土木工事など広い土地を使う分野に対応できます。
その意味では、Wi-SUN FANと似た特徴を持つ規格と言えるでしょう。
反面、非常に通信性能が限定されることと、国際規格ではないことから、将来の発展性は乏しいです。
そのうえ、日本向けのRC3に対応している製品は、ほとんど日本でしか使えないモジュールが多いです。
これらの制約から、調査・研究のための投資が回収できない危険性を含みます。
この問題を慎重に考慮しつつ、計画を練る必要があるでしょう。
ぜひ本記事を参考に、最適なSigfoxモジュールを見つけて頂き、確実にメリットを生むことができる製品計画が実現されれば幸いです。
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