IoT関連技術の進展に伴い、温度センサーの価値が見直されていますが、それは一体なぜなのでしょう?
本記事は、温度センサーについて詳しくない方を対象に、IoTで温度センサーが再注目されている理由や、温度センサーの選定方法を解説します。
メーカー各社が提供する温度センサーの比較も掲載していますので、センサー選定の一助としてお役立て頂ければ幸いです。
IoTで温度センサーが注目される理由
一口にセンサーと言っても様々ですが、温度センサーは数あるセンサーの中でも比較的長い歴史を持ちます。
よって、温度センサーの技術は成熟しており、簡単な温度センサーであれば大変安価に購入可能です。
ヒトは「誰かが自分の前を横切った」ということを目で見て感じます。
しかし、温度センサーを備えていれば熱で感じることもできるでしょう。
一般に、温度センサーは光センサーより安価なので、自動ドアの人感センサーに温度センサーが使われていることは、コスト面から見ても合理的な判断です。
熱を発するのは生物だけではありません。
電子回路や産業機械など、身の回りにある様々なものが熱を介して情報を発信しています。
そうした情報を、可能な限り安価・大量に収集し、活用する上で、温度センサーは大変有効なデバイスです。
つまり、温度センサー再評価の一因は「大量にセンサーを設置してビッグデータを活用する」というIoTの要求に合致していたからだと言えるでしょう。
IoTにおける温度センサー活用の具体例
温度センサーは自動ドア以外にも様々な用途で用いられます。
温度センサーのIoT的な活用イメージを持つため、具体例をいくつか見ていきましょう。
冷蔵庫温度管理
厳しい衛生管理や品質管理が求められる食品製造分野では、冷蔵庫の温度管理や記録が必要です。
温度センサーとIoTは、これまで人が目視で行ってきた温度チェック作業を自動化し、作業コスト低減に寄与します。
参考事例:食品工場向けに温度測定、管理を自動化するIoTサービス
空調管理
特に大きな施設や工場において、エアコンによる年間の電気料金は莫大です。
温度センサーで取得した気温情報と各センサーの位置情報を空調システムとリンクさせることで、効率的に暖気や冷気を行き渡らせ、電気代を抑えることができます。
化学プラントの配管温度制御
腐食性の高い薬品・高温の原料を扱う化学プラントではタンクや配管にクラックが生じやすくなっています。
故障や事故が起きる際の温度変化をモニタリングして解析することで、事故が発生する予兆を検知し、事故防止に役立てられます。
また、配管のチェック作業に要する作業員の負担を軽減することも可能です。
温度センサーを選ぶポイント
以下では、温度センサーを選定する方法について解説していきます。
目的や用途が決まっているだけでは、温度センサーを1つに決めることはできません。
温度センサーを選定する際には以下3つのポイントに注意してください。
耐用温度域
温度センサーが使用に堪えうる温度域は種類によって異なります。
特に工場など、大きな熱が発生する場所では半導体を使った温度センサーは不向きです。
不適切な温度で使用すれば、潜在的なスペックを発揮できず、故障の原因となります。
要求精度
温度が 1℃違っても大きな問題がない場合もあれば、0.1℃の差が重要となる場合もあります。
不必要にハイスペックなセンサーは価格を圧迫しますので、求められている精度に合ったセンサーを選びましょう。
価格
特にIoTでビックデータを扱いたい場合、センサー1つ1つの値段は、最終的に大きな差になります。
センサーの数が多い場合、故障や保守点検で余計にコストがかさむ可能性もありますので、スペックと価格のバランスに注意しましょう。
IoTに用いられる温度センサーの種類と仕組み
温度センサーには様々な種類があり、その仕組みや特徴もそれぞれ異なります。
温度センサーを使用する温度域・要求精度・価格帯が決まったら、それらを元に「温度センサーの種類」を決めていきましょう。
古くからある温度センサーとしては、水銀の体積膨張を利用したものがありますが、電気信号として出力が得られないのでIoT活用には不向きです。
IoTに活用する場合、出力はほぼ電気信号に限られます。
以下ではIoTに活用できる温度センサーの種類と各温度センサーの仕組みを解説します。
接触式温度センサー
接触式の温度センサーは、体温計や気温計のように、温度を測りたい対象(人体や空気)に直接接触させて使用する温度センサーです。
IoTに利用されるのは、主に「測温抵抗体」・「サーミスタ」・「熱電対」・「IC温度センサー」の4種類です。
測温抵抗体
金属の抵抗値は一定ではありません。
一般に、金属の抵抗値は、低温では大きく(電流が流れにくく)、高温では小さい(電流が流れやすい)という特徴があります。
この性質を利用し、電流値から温度を算出するのが「測温抵抗体」です。
様々な金属が用いられますが、「白金(Pt)」が最も多く用いられます。
白金測温抵抗体は高精度な測温ができ、600℃の高温から極低温(-200℃)まで使用可能です。
貴重な金属を用いるため、他の温度センサーと比べると少々値が張ります。
サーミスタ
サーミスタは、金属ではなく半導体やセラミックを用いた温度センサーです。
基本原理は測温抵抗体と同じく、温度による抵抗変化を利用します。
測温抵抗体は温度が1℃上がったときの抵抗変化が全ての温度域で一定ですが、サーミスタは特定の温度で急激に抵抗が変化します。
これにより、特定の温度域では測温抵抗体よりも精密な温度測定が可能です。
安価ですが、使用できる温度域は限られます(-50℃ ~ 150℃程度)。
熱電対
熱電対とは、2種類の異なる金属導線を接続して回路としたシンプルな構造の素子です。
しかし、温度測定の原理については少々難解なのでここでは割愛します(詳細は「ゼーベック効果」で検索してください)。
測温抵抗体と同じく、広い温度領域をカバーでき、加えて、高級な金属を使わなくてもよいので、比較的安価に購入できます。
IC温度センサー
IC(integrated circuit)温度センサーとは、種々のサーミスタや基準電圧源、アンプなどを集積させた素子です。
特定温度における感度が高いというサーミスタの欠点(利点でもある)を補正し、広い温度域で一定の電流変化を示します。
非接触式温度センサー
非接触式温度センサーは、自動ドアの人感センサーのように、離れたところから測定対象の温度を計測できるセンサーです。
自然界に存在するほぼ全ての物質は「赤外線」という目に見えない光を放射しており、この赤外線のエネルギーは線源の温度に関連します。
非接触式温度センサーは、この赤外線のエネルギーを測定することで対象の温度を計測します。
非接触なので、ほとんどの固体が溶けてしまうような温度(1500℃程度)の測定も可能です。
温度センサーの各社比較
以上を踏まえ、温度センサーメーカー各社が扱う商品を比較してみます。
シース熱電対(名古屋科学機器)
名古屋科学機器では、熱電対を中心とした様々な形の温度センサー(注射型、貼付型、マグネット型など)を販売しています。
用途に合わせた標準品以外の受注生産も行っています。
サーミスタセンサ(SEMITEC)
SEMITECは OA機器、車載、医療、家電など、様々な用途に対応するサーミスタの販売を行っています。
安く大量のセンサーが必要な場合には、こちらがオススメです。
SHT3xシリーズ(SENSIRION)
IC温度センサーを用いた「SHT3xシリーズ」は、温度計のみならず、湿度計も備えており、高湿環境でも動作する高い信頼性が特徴です。
ローコスト版からハイエンド版まで取り揃えられており、様々なアプリケーションに対応できます。
信号処理機能も実装されているので、外部との通信も簡単。試作品として幾つか作ってみる場合には最適なセンサーです。
まとめ
ここまでご覧頂きありがとうございます。
温度センサーは実に多種多様で、どのメーカーにすれば良いのか迷うところです。
しかし、その原理や特徴に立ち返れば、自社の目的や用途に合ったセンサー選定がより簡単になることは間違いありません。
自社の要求を3つのポイント(温度域・精度・価格)から抽出し、センサーの種類(サーミスタ・熱電対など)を決めれば、調べるべきメーカーを絞ることができます。
IoT用温度センサーの選定に迷ったら、まずは「自社が何をしたいのか」を考え、その目的に合ったセンサーを選定することを意識しましょう。