LoRaWANは、LPWA(Low-Power-Wide-Area)と呼ばれる規格の一種です。
920MHz帯のアンライセンスバンドを使用する規格であり、日本国内でも積極的に導入されています。
本記事では、このLoRaWANとは何か、他の規格と比較して、利点・欠点はどのようなものなのか、入手しやすいモジュールは何か、という点について、詳しく解説します。
本記事を参考にして頂けば、LoRaWANモジュールを使って独自のIoT製品を設計する場合の利点と欠点が明確になります。
それにより、基本的なコストパフォーマンスのイメージが掴め、調査時間を短縮できます。
なぜIoTの通信にLoRaWANが必要なのか?
IoTの無線通信にLoRaWANを使用する理由は、以下の通りです。
LoRaWANを使用する理由
- 長距離・広範囲に伝送可能
- 少量のデータ収集に特化している
- 消費電力を最適化しやすい
LoRaWANは、ライバル規格といえるSigfoxと、性能のグレードが非常に似ています。
どちらも、長距離・広範囲で、少量のデータ収集に特化した規格です。
LoRaWANのデータレートは最大50kbpsで、約50km程度まで到達しますので、Sigfoxよりもさらに屋外に強い規格です。
少ない出力で遠くまで伝搬できるので、その分バッテリーの消耗が少なくて済みます。
また、エンドデバイスにはダウンリンクの頻度に応じて3つのクラス分類があり、役割に応じた頻度でアクティブにできるので、最適な消費電力で運用することができます。
LoRaWANの利点・欠点
前項のLoRaWANの特徴を、さらに掘り下げてみていきましょう。
自社製品の設計に影響を与える利点と欠点が整理できるようになります。
利点1. 920MHz帯は回り込みに強い
LoRaWANで使用されている920MHz帯(通称サブギガ帯)は、GHz帯よりも、「回折」しやすいという特性があります。
これは障害物に遮断されたときに、反対側に回り込む特性です。
これにより、障害物を迂回したり、山を越えることができるため、物陰・遠方に届きやすいという性質があります。
このため、屋内でも屋外でも利用しやすいです。
LoRaWANの実証実験結果によると、見通し距離を確保すれば、50km~100kmの通信に成功しています。
都市部でも5km~10kmの通信が可能です。
利点2. 国際的なオープン規格である
LoRaWANは、オープンな規格であり、誰でも入手可能です。
LoRaAllianceという団体が策定しており、ホームページから仕様をダウンロードできます。
これにより、世界中のメーカーが開発に取り掛かりやすく、相互運用性も確保された製品ができます。
どういうことかというと、同じ周波数であれば、異なるメーカーのゲートウェイと通信モジュールを混在させることができるのです。
したがって、サービスを構築するにあたっては様々なメーカーの製品を採用することができ、設計自由度が高まるとともに、調達時の枯渇リスクが低減されます。
利点3. 動的データレート制御
LoRaWANは、「アダプティブデータレート」と呼ばれる動的データレート制御技術を採用しています。
これは、ゲートウェイとエンドモジュールの間の通信状態を解析し、近距離で通信状態が良好な関係にあると判断した場合は、データレートを上昇させるものです。
反対に、通信状態が悪い場合はデータレートを下げます。
これにより、無理なデータレートでの通信を回避し、再送確率や通信断の確率を下げ、円滑な通信を維持します。
また、データレートが下がることで消費電力も低下するので、エンドモジュールはより長い期間動作可能になります。
運用形態に合った消費電力の最適化を、自主的にしてくれるわけです。
利点4. 双方向通信
LoRaWANでは、双方向通信をサポートしているので、エンドデバイスを制御しやすいです。
エンドデバイスには、クラスA・B・Cの3つがあり、以下のように特徴が異なります。
・クラスA ・・・ スリープ時間が長く、アップリンク直後にのみダウンリンク受信可能。消費電力が非常に小さい。
・クラスB ・・・ 定期的にアクティブになり、ダウンリンク受信可能。消費電力中。バランスのいい性能。NTTが提案して規格に取り込まれたもので、NTTはこのクラスの普及に力を入れています。
・クラスC ・・・ 常時アクティブであり、ダウンリンク受信可能。消費電力最大。
必要な双方向通信の頻度に応じて、適切なクラスを割り当てることで、必要なタイミングで制御できますし、やはりこれも、運用形態に即した消費電力の最適化につながっています。
欠点1. データレートが低い
LoRaWANは、IoTに特化した仕様となっているため、データレートが低く、最大で50kbpsです。
さらに、920MHz帯は、電波法により「1回の送信時間が400ms」「送信時間の10倍の時間待機」という制約が課されるため、実際のスループットは平均して最大5kbpsとなります。
これは、映像・音声を送るには明らかに帯域が不足しますし、リアルタイムな通信を確保することもできません。
その結果、自社サービスに関するアイディアが制約を受けます。
欠点2. インターネット用ミドルウェアがない
LoRaWANは、インターネット用のプロトコル部分を定義しません。
そのため、インターネットと通信するためには、別途ミドルウェアを開発するか、搭載済み製品を導入する必要があります。
現実的には、定型的な機能のミドルウェア開発は競争力の向上につながるとは言えません。
製品リリースの延長・開発コストの増加に対する理由として望ましくなく、回避すべきでしょう。
したがって搭載済み製品を選択することが望ましいことになりますが、それにより設計の自由度も低下することが懸念されます。
自社製品に適した通信モジュールが入手できるか、入念な調査が必要です。
欠点3. スター型ネットワーク構成のため、冗長化コストが高い
LoRaWANは、スター型ネットワーク構成のため、通信ルートの冗長化コストが、メッシュ型より劣ります。
メッシュ型であれば、ルート上のリスクに応じて、冗長化する部位を最小限にできるのですが、スター型の場合、これができません。
スター型では、冗長化ルートを増やす場合、そのための分岐開始点からエンドデバイスまでを、必ずセットで増設する必要があります。
メッシュ型のように途中で別のルートの装置に合流することができません。これは、経済的にデメリットが大きいです。
欠点4. ネットワーク部分は別途構築またはレンタルが必要
LoRaWANは、類似規格のSigfoxと異なり、クラウドストレージ部分は提供していません。
そのため、ストレージまでのネットワークを自営で構築するか、レンタルする必要があります。
これは煩雑になりやすく、コストアップにつながります。
LoRaWANモジュールを選ぶポイント
LoRaWAN通信モジュールを選ぶポイントとしては、以下の項目が重要です。
屋外長距離通信が必要か?
LoRaWANは、小電力・長距離に特化した通信規格です。
ですから、屋外での長距離・広範囲をカバーする用途に長けています。
もし都市部で数百m~1km程度の範囲をカバーすればいいのであれば、LTEやWi-SUNなど他の規格の方がデータレートが高いので、使いやすいかもしれません。
また、屋内で近距離通信のみ必要であれば、普及しているWi-Fi、Bluetoothの方が様々な用途に応用が利くので、開発効率も良く、人気も高くなるでしょう。
LoRaWANモジュールを採用するためには、あくまでその特徴を生かせる利用シーンが必要ですので、注意しましょう。
ハイブリッド通信が必要か?
どんな通信プロトコルでも、目的に合わせた機能を持つように策定されます。
ですから、どの規格を採用しても、必ず利点と欠点があります。
それを補うためには、ハイブリッドモジュールが有効です。
例えば、小型IoT装置をスマホから制御したい場合は、LoRaWANモジュールと併せて、BluetoothやWi-Fiモジュールの実装も必要かもしれません。
ですが、2つのモジュールを搭載すると、搭載スペースも2倍必要になるので、製品サイズが増加して使いにくくなります。
この場合、ハイブリッドモジュールを採用すると、サイズアップを効果的に抑えることができます。
このように、自社製品の利用シーンに適した機能を、できるだけ多く搭載しているモジュールを採用することが望ましいです。
プライベートLoRaが必要か?
プライベートLoRaというのは、「PHY層はLoRa変調で、MAC層は独自プロトコル」にしたものです。
例えば、自営ネットワーク内で、自社のニーズに合わせた特殊な機能を持たせるようカスタマイズしたい場合に採用されます。
これにより、他社との相互運用性は失われますが、その代わりとして自社ニーズにきめ細かく対応できるという利点が生まれます。
これが有益かどうかは、サービス内容によって異なりますが、機会損失を回避するためにも、1つの可能性としてしっかり検討しておきましょう。
注意点としては、プライベートLoRaを実装する場合、汎用的なLoRaWANモジュールを利用するよりも、開発コストが増加することです。
この対策としては、FOTA対応のモジュールや、FPGA搭載モジュールなどが効果的です。また、開発ツール類の使いやすさも重要です。
クラウドサービスを開発する必要があるか?
LoRaWANは、標準的なクラウドサービスを提供しません。
ですから、別途サービスを契約するか、自営ネットワーク内にストレージを確保する必要があります。
これを新規に構築するとなると莫大な費用がかかりますので、クラウドサービスが必要かどうか、もし必要ならレンタルするのか、新規開発するのか、現実的な観点から検討が必要です。
通信モジュールの機能としては、インターネットに接続するためのミドルウェア搭載製品を採用することが望ましいです。
LoRaWANモジュール製品情報比較一覧表
LoRaWANモジュール製品情報比較一覧表を掲載します。
ここで掲載したものは技適取得済みのものだけです。
ですが実際は、ディストリビューターの在庫は、技適未取得品の在庫の方が、圧倒的に豊富でした。
その中にはハイブリッド製品やSoCなど使いやすい製品も多いです。
ですから、技適未取得品を使用して技適は自社で新規取得、という選択肢も、忘れず検討しておくべきです。
メーカー | SEMTECH (アメリカ) | SEMTECH (アメリカ) | Fanstel (アメリカ) | MultiTech (アメリカ) | STMicro (スイス) |
---|---|---|---|---|---|
型番 | SX1262IMLTRT | SX1262MB2CAS | LR62E | MTDOT-915-X1P-SMA-1 | STM32WLE4JCI6 |
価格[円] | 892 | 892 | 1535 | 7227 | 1064 |
無線規格 | LoRa FSK | LoRa FSK | LoRa | LoRa FSK | LoRa Sigfox |
I/F | SPI | SPI | SPI | SPI UART | SPI UART USART LPUART |
ANT | 外付 | 外付 | 外付 U.FL | 外付 SMA | 外付 |
技適 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
寸法[mm] | 4.0 x 4.0 x 0.9 | 不明 | 10.2 x 15.0 x 1.9 | 25.5x 37.3 | 7.0x 7.0x 0.5 |
動作温度[℃] | -40 ~ 85 | -40 ~ 85 | -40 ~ 105 | -30 ~ 70 | -40 ~ 85 |
動作湿度[%] | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 |
説明 | ・感度 -133dBm ・150-960 MHz | ・感度 -148dBm ・150-960 MHz | ・902-928 MHz ・FOTA ・FCC/ISED/CE/ RCM/QDID | ・860-1020 MHz ・感度:-130dBm ・見通し15km/ ビル内2km ・FCC/CE/RCM/GITEKI | ・150-960 MHz ・感度:-148dBm ・FOTA |
LoRaWANモジュールの購入先
大手ディストリビューターでも技適を取得しているモジュールは少数でした。
また、PCB形状の製品ではなく、IC製品の割合が高かったです。
PCBの設計まですると大変ですから、国内のRoLaWANモジュール製造メーカー、または海外製造メーカーの日本支社と、直接取引するのが現実的ではないでしょうか。
その理由は、言葉の障壁があると、コミュニケーションの食い違いによる手戻りが余計に増大するからです。
まとめ
LoRaWANモジュールは、小電力で広範囲をカバーできる小データ量のIoT用途向けの製品です。
策定団体のLoRaAllianceには、現在100社を超える企業が参画していますが、大手ディストリビューターの在庫はFCC/IC/CEまで適合の製品が大半です。
このことから、主要マーケットは欧米という印象を受けました。
言語的な障壁が厚い場合は、国内のメーカーに目を向けましょう。
日本国内では、例えばNTT・SORACOMなどがLoRaを推奨しています。
そうした企業の展開しているLoRa関連サービスを試験的に導入してみたり、技術的なアドバイスを受けることで、現実的な計画を練ることができるようになるでしょう。
一般的なインターネット情報として入手できるLoRa関連の技術情報をあまり豊富とは言えません。
そのため、LoRaAllianceの資料や、海外メーカーの資料など、英語の資料にもよく目を通す必要があります。
本記事が、有益なLoRaWANサービスを考案する一助になれば幸いです。