IoTのエンドデバイスをネットワークに接続するにあたって、最も使いやすい通信規格の組み合わせは、「キャリアのメイン電波のLTE+世界中で使えるWiFi」です。
これは、端末からルーターをWi-Fiで接続し、ルーターのバックホールをLTEで接続するものです。
本記事では、このLTE+Wi-Fiの組み合わせで動作する産業用LTEルーターのうち、Amazonで購入できるおすすめ5製品の性能を比較し、ご紹介します。
本記事を読んで頂くと、使いやすい産業用LTEルーターの基本的な特徴と、IoTに活用するための要点が把握できます。
産業用LTEルーターの利点・欠点

ここでは、産業用LTEルーターをIoT用途として導入するにあたっての、利点と欠点を解説します。
産業用ルーターを導入するかどうかを検討するために、まず最初に参考にして頂きたい情報です。
利点1.LTE基地局が日本中に設置済み
バックホールのLTE電波は、山間部を除く日本全国で接続できます。
現在は、LTE(4G)から5Gに向けて移行が開始されている時期であり、当面の間、LTEは大手携帯キャリアの主要インフラとして機能し続けます。
また、屋外公衆電話回線としてだけではなく、交通機関・商業施設・公共施設などにおいても、導入が進んでいます。
つまり一言で言えば、『日本中どこでも使える電波』ということになるわけです。
このことは、産業用LTEルーターを導入できる利用シーンが、他の規格に比べて圧倒的に多いことを意味しています。
利点2.市販のWi-Fi対応端末が無数にある
いまや、Wi-Fiはエンドデバイスの必須の機能になっています。
高速通信ができるので、個人向けとして、様々なニーズに応えられる性能をもっているからです。
LTEと同様、Wi-Fi基地局(アクセスポイント。以下AP)は、様々な施設に設置されています。
それに加えて、理論的な通信速度は、普及規格のWi-Fi5(802.11ac)では6.9Gbps、Wi-Fi6(802.11ax)では9.6Gbpsに達しており、
大多数のエンドデバイスを接続できるため、大規模スタジアムなど、人口密集地帯にも展開されています。
こうしたことから、ユーザーはWi-Fiが利用できることが当たり前であり、反対に利用できないことに不便さを感じる社会環境になっていますので、
産業用LTEルーターとエンドデバイス間の通信規格がWi-Fiであることは大きな意味があります。
利点3.耐環境性能が高い
産業用電子機器は一般的に、耐環境性能が個人向け製品よりも優れています。
なぜかというと、製造現場での高温・多湿環境に耐えたり、医療・経済・交通関係などの超重要設備に支障を与えたりしない性能が求められるからです。
このようなシビアな環境で、長期間安定して稼働させるために、素材自体に高機能・長寿命なものを採用し、実運用環境よりも厳しい社内試験を通過した後にリリースされています。
利点4.電源は、直流48Vが多いため、高信頼!
産業用電子機器は、直流-48Vを電源とする製品が多いです。
これは、商用電源の不安定さを解消し、常時安定稼働するためです。
電力会社の設置している屋外送電線(以下商用電源)は、台風・地震・工事事故による損傷、夏場のピーク電力の大変動、
夏・冬の落雷サージによる地絡などがあり、停電しやすい弱点があります。
この対策として、ある程度経済基盤の強い企業では、商用電源が停電したときにバックアップする自家発電機を設置し、
さらに両者の電流を直流48Vに整流しつつ、大規模なUPS(直流蓄電池の集合体)を経由して、これを充電したまま負荷に給電する、という構成が主流です。
こうすることで、商用電源が停止しても、産業用電子機器は(しばらくの間は)気にせず稼働できるわけです。
欠点1.普及規格であるため干渉が多い
LTE・Wi-Fiともに普及して浸透している規格であるため、設置場所での干渉を考慮する必要があります。
産業用LTEルーターの周辺に、LTE・Wi-Fi機器が複数あると、干渉源が多すぎて、チャネルを移動しても回避しきれなくなり、通信困難になる場合があります。
既設の通信環境を阻害しないよう注意が必要です。
欠点2.AC電源しか用意できない場合、AC/DCコンバーターが必要
AC電源から給電するしかない場合で、かつ直流電源しか入力できない産業用LTEルーターを使いたい場合は、AC/DCコンバーターを前段に設置します。
これは電気を交直変換できる装置で、AC入力し、DC出力をルーターに給電します。
ノイズの小さい高品質な直流電流を得るには、高価なコンバーターが必要で、コストアップになります。
また、余分な設置スペースが必要です。
欠点3.ACアダプタの耐環境性能が不足する場合がある
ACアダプタを産業用途として設計せず、直流ケーブルの直接給電のみ産業利用として想定されている製品の場合、その耐環境性能が、本体の性能に満たない場合があります。
これを確認せずに、安直にACアダプタを使用してしまうと、顧客に提供するはずの環境条件を満たせず、賠償問題に発展するおがあります。
欠点4.防塵・防水製品が少ない
産業用LTEルーターは、二次側にLANポート(RJ45)を備えているのが一般的です。
そのため、基本的に防塵・防水性能を確保できません。
一部、この性能を備えているものはありますが、ごく少数です。
ですから、もしこの性能を求める場合は、別途防塵・防水規格(IPX規格)対応のシャーシを購入し、その中に設置するのが簡単です。
設置台数が多くなると、かなりコストアップしますので注意しましょう。
産業用LTEルーターを選ぶポイント

ここでは、産業用LTEルーターの導入が決定した後、実際の機器を選定するにあたって、見逃してはいけないポイントを解説します。
環境試験の内容が目的に合っているか(JIS-C-60068)
産業用途として利用するにあたっては、先述したシビアな環境に耐える性能を備えているか、確認してから導入する必要があります。
そこで、JIS-C-60068に規定されている環境試験について、どの基準を満たしているのか、製品仕様書で確認する必要があります。
ちなみにこのJIS規格は、国際規格を取り込んだものですので、IoTサービスの海外展開を検討する場合も有効です。
電源ケーブルなどのロック機能があるか
自動車などの移動体への設置など、振動環境での利用を想定する場合、その振動でケーブルが脱落しない仕様が必要です。
特に電源ケーブルの脱落は致命傷になりますので、ロック機能があるかしっかり確認しておきましょう。
UPSが内蔵されているか
もし中小企業などで、大型UPSを設置する経済的な余裕がない場合、内蔵UPS搭載製品の利用を検討してみる価値があります。
それほど大きな充電容量は望めないですが、通信時の省エネ性能が高い製品であれば十分有効です。
遠隔監視機能があるか
多数のルーターを設置する場合や、遠隔地にルーターを設置する場合など、遠隔監視機能は必須です。
これにより、移動時間を最小限にすることができ、保守効率が高まります。
自動復旧機能があるか
自動復旧機能があると、あらゆる場面で有益です。
特に屋外や狭い隠ぺい場所など、保守しにくい場所に装置を設置する場合、強みを発揮します。
この機能があると、その場所に行かなくても復旧されることが増えるので、保守効率が改善され、労働環境としても良好になります。
注意点は、オンライン監視ができないと効果が薄いことです。
屋外では低温性能必須
最低気温の日本記録は、「1902年1月25日の北海道旭川で、“-41度“」です。
もちろん、これは極端な例ですが、しっかり運用環境の最低気温・最高気温を確認しましょう。
特に屋外用途であれば、油断は禁物です。
自動車に搭載する場合は直流12V
自動車に搭載する場合は、大衆向けの一般的車両のほとんどは12Vになっていますので、これを給電できる機種のみ選択肢になります。
一部、先鋭的なメーカーから48Vなどの電圧の車種が発売されていますが、全体的な普及には至っていません。
【2021年おすすめ】産業用LTEルーター5選!
産業用LTEルーターのうち、Amazonで入手しやすく、代表的な性能をもつ5製品について、性能比較一覧表を掲載します。
実のところ、Amazonでは産業用LTEルーターは、4種類しか見つからず、その中で技適対応製品は、2種類だけでした。
これでは設計自由度があまりにも乏しいですから、Amazonで購入するよりも、メーカーまたは代理店から直接購入するのが望ましいです。
TC710(ミオ・コーポレーション)
TC710は、Wi-Fi5(802.11ac)に対応しており、エンドデバイスと高速に通信可能です。
また、電源コネクタのロック機能があり、地震など予期せぬ振動で脱落しないのも安心。
LTEアンテナは、内蔵と外付けどちらも複数のアンテナが搭載されているので、単独のアンテナよりも良好な通信状態を維持してくれます。
製品仕様
- ブランド/メーカー:ミオ・コーポレーション
- 参考価格:¥
110,000¥33,000 (販売店での特別価格) - 技適:対応
- アンテナ:内蔵/送信 x2, 受信 x2, 外付け/メイン x1, サブ x1
- LANポート:WAN (10/100BASE-T) x1, LAN (10/100BASE-T) x2
- 対応キャリア:ドコモ/KDDI/Softbank
- 寸法:119.1 x 117.7 x27mm
- 重量:180g
ポイント
Wi-Fi5対応の高速通信。アンテナ内蔵で狭いスペースも可、電源コネクタロック
適した用途
人が接近しやすい場所への設置・エンドデバイスが多数
UBR-LTE-E-T-PRM(Peplink)
Peplink社のマルチSIM製品『UBR』シリーズのアジア向けオーダーモデルです。
高速LANポート搭載で、LTEは4回線のうちメイン2回線、サブ2回線で冗長性能が高いのが特徴。
Wi-Fi4は1世代前のレガシー規格ですが、接続先エンドデバイスが少量のデータ通信であれば問題なく利用できます。
耐環境試験のEN61000準拠で、産業用途に安心して使用することができます。
これは、車載環境でも使用できる高品質な製品です。
製品仕様
- ブランド/メーカー:Peplink UBRシリーズ
- 参考価格:¥110,000
- 技適:対応
- アンテナ:外付け/アクティブ x2, スタンバイ x2
- LANポート:WAN (1G) x1, LAN (1G) x4
- 対応キャリア:ドコモ/KDDI/Softbank
- 寸法:130 x 110 x 41mm
- 重量:515g
ポイント
高性能LAN(1Gbps)、LTE側冗長化、やや重い、GPS追跡機能、耐環境性能が高い
適した用途
高トラフィックの企業向け、エンドデバイスはデータ通信量小・多数、高速移動体に設置
BPL-021X-LTE-US-T-PRM(Peplink)
Peplink社の負荷分散機能付きルーター製品『Balance』シリーズのアメリカ向けオーダーモデルです。
温度耐性が弱く、特に高温に耐えられないので、通信機械室など、よく冷えた屋内環境に設置する必要があります。
高性能な負荷分散により、構内トラフィックを円滑に保ちます。
LANは1Gbps対応で、かつWi-Fi5(802.11ac)の高速バージョン『Wave2』対応なので、二次側にハイスペック端末を使用したい方におすすめです。
製品仕様
- ブランド/メーカー:Peplink BALANCEシリーズ
- 参考価格:¥64,460
- 技適:非対応(別途アジア向けオーダーモデルあり)
- アンテナ:外付け/アクティブ x2
- LANポート:WAN (1G) x1, LAN (1G) x4
- 対応キャリア:国内非対応(別途アジア向けオーダーモデルあり)
- 寸法:160 x 262 x 33mm
- 重量:670g
ポイント
高性能LAN(1Gbps)、負荷分散、やや重い、GPS追跡機能
適した用途
高トラフィックの企業向け、二次側データ通信量大・多数
MAX-BR1 Mini(Peplink)
Peplink社の小型軽量ルーター『MAX-BR1』シリーズです。
通信性能は最小限ですが、冗長化SIMスロットがあるため通信接続性は高いです。
EN61000規格準拠で、PoE給電対応により電源ケーブル不要にできるため、配線スペースを最小限にできます。
これらの特徴から、UBRシリーズよりも、高速移動体に設置することにより特化した製品と言えます。
製品仕様
- ブランド/メーカー:Peplink MAX-BR1シリーズ
- 参考価格:¥60,000
- 技適:対応
- アンテナ:外付け/アクティブ x2
- LANポート:LAN(10 /100BASE) x2
- 対応キャリア:ドコモ/KDDI/Softbank
- 寸法:117 x 107x 35mm
- 重量:240g
ポイント
通信性能は最小限、冗長化SIM、耐環境性能高い、PoE対応、小型軽量、GPS追跡機能
適した用途
トラフィック小、高速移動体向け、エンドデバイス数台程度
USR-G800V2(USRIOT)
USRIOT社の小型ルーター『USR-G800V2』シリーズです。
必要最小限の性能なので、エンドデバイスが数台程度の一般的な小規模IoTサービスに向いています。
耐環境性能はデータシートからはわかりませんので、高速移動体通信には向いていないと考えましょう。
高温多湿に強いという点は、優れた特徴です。
製品仕様
- ブランド/メーカー:USRIOT USR-G800V2シリーズ
- 参考価格:¥50,643
- 技適:非対応
- アンテナ:外付け/アクティブ x2
- LANポート:WAN(10 /100BASE) x1, LAN(10 /100BASE) x4
- 対応キャリア:国内非対応
- 寸法:216 x 113 x 35mm
- 重量:不明
ポイント
通信性能は最小限、高温多湿に強い、直流給電のみ
適した用途
トラフィック小、エンドデバイス数台程度、中小企業向け
おすすめ情報源

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様々なメーカーのカタログや仕様書がまとめて一括ダウンロードできます。
情報収集のためにとても役に立ちます!
参考URL:
ものづくり向けデータベースサイト イプロス
まとめ
産業用LTEルーターは、個人用途ではあまり見慣れない直流電源を使用する必要があります。
そのため、電源上流側の知識も少々必要になりますので、その部分についても、ごく基礎的な最小限の要点に絞って、盛り込みました。
うまく活用できれば、工場のオートメーションに貢献したり、レスポンスの高速なIoTサービスを実現できるでしょう。
本記事では、その最初の一歩になるような、代表的な製品を紹介しました。
もし本記事がきっかけになり、お客様に喜ばれるようなIoTサービスが実現されたなら、嬉しい限りです。
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